92歳の母との毎日 ― 認知症と向き合う暮らし
母は1932年生まれ、現在92歳。日常の記憶が徐々に薄れ、同じことを何度も尋ねるのは日常茶飯事になっています。例えば就寝前の会話でも、母は「明日どこか行くんだっけ?」と尋ね、私が「デイサービスだよ」と答えると安心して眠ります。
しかし、リビングに戻ると、センサーマットが反応してまた母が起き、同じ質問を繰り返すこともあります。それでも、笑顔で「明日はデイサービスだから早く寝るようにね」と言える可愛らしいボケ方です。
朝も同様で、「今は朝の7時?」と尋ね、「明るいから朝だよ」と答えると、「ボケちゃったかしら」と笑うのです。このやり取りの中で、日々の変化に気づきつつも、母の元気な様子を楽しむことができています。
骨折や手術を経て ― 認知症症状の変化
ここ3年で母は骨折2回、大腸がん、胆管結石などさまざまな病気や手術を経験しました。特に骨折の入院期間は長く、リハビリ病院も含めると2~3か月に及び、コロナ禍のため面会も制限されました。
その間、母の表情は無感情に近く、認知症の症状が進行しているように見えたこともあり、社会や人とのつながりの重要性を痛感しました。
退院後は、家での会話を増やすこと、日常に楽しみを取り入れること、配膳の手伝いやケアマネジャーさんとの相談、デイサービスや訪問リハビリの回数を増やすことなどを実践しました。
特にケアマネージャーさんのアドバイスは私を強く支えてくれました。すると徐々に表情が明るくなり、笑顔も戻ってきました。物忘れは日常茶飯事ですが、以前のように目つきが無表情だったり、寂しげだった時期と比べると、良い方向に改善し、安心して見守れるようになりました。
認知症の進行を遅らせる工夫
友人との話題から、母の認知症進行を遅らせる方法を改めて調べました。主な取り組みは以下の通りです。
- 脳トレ・認知療法:記憶力や脳の活性化を目的に数字や単語のリストを覚えるなどの課題を繰り返す。
- 記憶力トレーニング:読書や映画の内容を思い出す、日常の小さな出来事を覚える。
- 認識トレーニング:絵や写真を観察して細部を覚える、類似画像や単語を区別する。
- 注意力トレーニング:複数タスクを同時に行う、パズルやクロスワード、文章理解。
- 問題解決トレーニング:論理的思考や課題解決力を鍛えるクイズやパズル。
- 言語トレーニング:会話、文章作成、言葉遊びを通じたコミュニケーション能力向上。
- 適度な運動:ウォーキングや有酸素運動で血流促進と脳の健康維持。
- 健康的な食事:抗酸化物質やオメガ3脂肪酸を含む食品(野菜・果物・魚)で栄養補給。
- 社会的交流:友人・家族との交流、地域活動への参加。
- 睡眠・ストレス管理:規則正しい睡眠、リラクゼーション法やマインドフルネスでストレス軽減。
しかし、最も大切だと思うのは日々の会話とコミュニケーションです。これに勝るものはないと確信しています。
暑い日が続き外出しにくい中でも、母と昔の写真を見ながら旅行や楽しい出来事を話すだけで、笑顔が増え、脳が活性化されていることを感じます。
毎日の食事とおやつ ― 楽しみを増やす工夫
母は食べることが大好きで、以前に比べて量は減ったものの、3食+おやつはきっちりと摂っています。朝ごはんはピザトースト(野菜を日替わりで炒めて乗せ、チーズで焼く)、果物とコーヒーを添えます。冷凍のマンゴー、パイナップル、ブルーベリーは便利で、バナナとシロップを合わせれば簡単にフルーツポンチに。
おやつは手作りパフェやカステラ、フルーツを使った簡単なものを用意。最近では桃のパフェがヒットしました。母が「今日のおやつは何?」と楽しみにして笑顔で聞くと、作る側も自然と笑顔になります。
夕食は朝に「今日は何が食べたい?」と聞くことで、母の希望に合わせた献立を準備します。食べた内容は翌日には忘れてしまいますが、それでも食への興味や楽しみを持ち続けることが、認知症の進行を和らげる大切な要素です。
まとめ ― 会話と食で笑顔を守る
在宅介護の中で気づいた、ほかの記録もまとめています
認知症予防や日々の会話、食事の工夫は、ある日突然うまくいくものではなく、 毎日の積み重ねの中で少しずつ形になっていきました。
同じように在宅介護を続ける中で感じたことや、迷いながらも向き合ってきた記録を、 以下の記事にまとめています。
- 【母の介護】2022年初めて在宅介護を経験して気付いたことまとめ
- 新年のご挨拶と、この冬に気づいた「介護者の体調管理」の大切さ
- 大腸カメラ検査から大腸がんの告知まで。母の介護と向き合った一週間の記録
- 母が92歳になり「老い」を考える― 日常の中で楽しむ工夫
92歳の母との在宅介護では、物忘れや認知症の症状があっても、毎日の会話や食事を中心に楽しみを増やすことで笑顔と元気を保つことができます。
外出が難しい日でも、家庭でできる工夫次第で質の高い生活を維持できます。
昔の写真を見ながら思い出話をしたり、手作りのおやつや食事を一緒に楽しむことで、脳の活性化や気力の維持にもつながります。
母が「今日のおやつは何?」と楽しみに笑顔で尋ねる姿を見ると、日々の小さな工夫がどれほど大切か実感します。
会話と食を通して、母が安心して穏やかに過ごせる時間を守りながら、介護者自身も無理なく笑顔で過ごすことができると信じて、母が100歳まで元気に過ごすことを目標に、日々の積み重ねを大切にしながら、穏やかで笑顔の多い暮らしを続けていきたいと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 在宅介護で認知症予防のために、家庭でできることは何ですか?
A. 特別なことをしなくても、日々の「会話」と「食事」が大きな役割を果たすと感じています。
予定を一緒に確認する、今日あったことを話す、昔の写真を見ながら思い出を語るなど、自然なコミュニケーションが脳への刺激になります。また、食事を楽しみにする習慣は、生活のリズムを整え、意欲の維持にもつながると教えていただきました。
Q2. 認知症の親と同じ話を何度も繰り返すのがつらいとき、どう対応すればいいですか?
A. 毎回正確さを求めず、「安心できる返答」を意識しています。
同じ質問でも、落ち着いた声で同じ答えを返すことで、本人は安心しますよね。無理に訂正したり注意したりせず、気持ちを受け止める対応が、介護する側の負担軽減にもつながっています。
Q3. 外出が難しい高齢者でも、認知症の進行を遅らせることはできますか?
A. はい、外出できなくても工夫次第で十分可能だと思います。
家の中で会話を増やす、食事やおやつを楽しみにする、テレビや写真を話題にするなど、日常の中に「刺激」を取り入れることが大切です。人とのやり取りそのものが、認知機能の維持につながります。
Q4. 認知症の親の食事で、特に意識したほうがよいポイントはありますか?
A. 栄養だけでなく、「食べる楽しみ」を重視することがとても大切です。
好きなものを取り入れたり、色や香りを意識したりすることで、食欲や会話が自然に生まれます。量が減っても、回数や内容を工夫することで、心と体の元気を支えることができます。
以前、茶碗蒸しを作ったらすが立ってしまい「失敗しちゃった」と言ったら、母がコツを教えてくれて大笑いしたこともあります。
Q5. 在宅介護を続ける中で、介護者自身が気をつけるべきことは何ですか?
A. 介護者自身の体調管理と、気持ちの余裕が何より大切です。
無理を続けると、共倒れになってしまいます。休めるときは休み、相談できる相手やサービスを頼ることも、大切な「介護の一部」だと感じています。介護者が笑顔でいることが、結果的に一番の支えになります。

