香りがくれる、安心の時間
在宅介護の日常にそっと寄り添う「香りの力」
最近、母がとても気に入っている入浴剤があります。
よもぎ、カモミール、炮じハト麦がブレンドされた、ハーブの入浴剤です。

訪問入浴が来る少し前、ボウルに熱湯を入れて入浴剤を浸し、浴室に置いておきます。
すると、しばらくしてから、ふわっとやさしいカモミールの香りが広がってきます。
その瞬間、空気が少しやわらぐような感覚があり、私自身の肩の力も、自然と抜けていくのを感じます。
介護の準備は、どうしても「段取り」「時間」「安全」に意識が向きがちです。
けれど、こうして香りが加わるだけで、同じ準備の時間が、少し穏やかなものに変わるから不思議です。
香りの力は、心をゆるめてくれる
母は「いい香りね」と言って、毎回うれしそうにしています。
その一言を聞くだけで、「今日は少し落ち着いた時間になりそうだな」と思えるのです。
香りには、気持ちを落ち着かせたり、安心感を与えてくれたりする力があります。
セルフケアという言葉を聞くと、特別なことをしなければいけないような気がしてしまいますが、
こうした“ささやかな心地よさ”も、立派なセルフケアなのだと思うようになりました。
母のために用意した香りなのに、実は一番救われているのは、私自身なのかもしれません。
香りが呼び起こす、記憶と感情
香りをきっかけに、ふと昔の記憶がよみがえることがあります。
母も、以前はオーデコロンを好んでつけていました。
外出前に鏡の前で、オーデコロンの瓶を手に取って、ほんの少し手首と耳につける。
私はその香りが大好きでした。母の香り。
今思えば、それは「身だしなみ」というより、気持ちを整えるための小さな儀式だったのかもしれません。
けがをしてからは、そうした習慣も自然と減ってしまいました。
でも最近、入浴剤の香りに包まれる母を見ていて、
「入浴のあとにも、ほんの少しだけ香りを添えてみようかな」と思いました。
来週から、訪問入浴が終わったあとに、軽く香りをまとう。
それだけでも、母の気持ちが少し明るくなったり、「気持ちよかったわ」と感じる余韻が長く続くかもしれません。
「よさそう」と思ったことを、無理なく試す
在宅介護をしていると、「これで合っているのかな」と迷うことばかりです。
正解が見えないからこそ、つい慎重になりすぎてしまうこともあります。
それでも最近は、「少しでもいい効果がありそう」と感じたことは、無理のない範囲で試してみよう、そう思えるようになりました。
香りも、そのひとつです。
大きな変化はなくても、気持ちがふっとゆるむ瞬間があれば、それで十分なのだと思います。
「よさそう」と感じたことは、無理のない範囲で試してみる。
在宅介護を続ける中で、そんな柔らかな姿勢を大切にしたいと思っています。
何気ない朝の風景も、介護の一部
今朝、物干し竿が濡れていて、昨夜雨が降ったことを知りました。
まずは竿拭きから、一日がスタート。
母は今日も変わらず元気にデイサービスへ出かけていきました。
その背中を見送りながら、「今日もいつもの一日が始まるな」と、ほっとします。
週末なので、これから買い物にも行かなくてはなりません。
特別な出来事はなくても、香りや天気、小さな気づきが、介護の日々をやさしく支えてくれている。
在宅介護は、何か劇的な出来事が起きる毎日ではありません。
けれど、こうした何気ない瞬間の積み重ねが、母と私の心を、静かに整えてくれているのだと感じています。
今日も穏やかな一日でした。

