介護と仕事の「境界線」が消える瞬間の葛藤
在宅介護をしながら仕事をしていると、ある日ふと、「今はどちらの時間なのだろう」と分からなくなる瞬間があります。
仕事をしているつもりなのに、気持ちは介護のほうへ引っ張られている。
介護に向き合っているはずなのに、頭の片隅では仕事の段取りを考えている。
今日は朝から、母が「ちょっと寒気がする」と言いました。その一言で、心が少し揺れました。
風邪をひいたのだろうか。
夜、ちゃんと眠れていただろうか。
結局、夜には鼻水も止まり、本人は「もう大丈夫」と笑っていましたが、その間ずっと、私の中では小さな不安が行ったり来たりしていました。
在宅介護をしていると、体調の変化そのものよりも、それに反応する自分の気持ちのほうが、ずっと疲れることがあります。
仕事中の「ハイホー」と、心が一気に切り替わる瞬間
私は自宅で、Zoomを使った打ち合わせをすることが多い仕事をしています。
母が休んでいる時間を見計らってスケジュールを組み、「今なら大丈夫」と思って仕事を始めます。
けれど、ときどき、その境界線はいとも簡単に消えてしまいます。
打ち合わせの最中、センサーマットに母の足が触れた瞬間、リビングに「ハイホー」が鳴り響く。
その音を聞いた途端、頭の中が一気に介護モードに切り替わります。
仕事の話をしていたはずなのに、次の瞬間には「母は大丈夫か」「転んでいないか」と、介護モードに引き戻される。
仕事仲間の多くは、私の状況を理解してくれています。それでも、たまたまそうではない場面に重なってしまうと、画面の向こうに向かって笑顔を作りながら、心の中では焦りが広がっていきます。
在宅で仕事ができる環境は、確かに助かっています。
それでも、介護と仕事が同じ空間にあることは、想像以上に気力を使うことだと、日々感じています。
深夜の介護で気づいた「自分に必要な時間」
先週は、編集の仕事が大詰めでした。
締切が迫り、深夜までパソコンの前に座っていました。
「今、ちょうど乗ってきたな」そう思ったタイミングで、また「ハイホー」。
母の部屋に行き、様子を確認し、またパソコンの前に戻る。そんなことが何度も続きました。
ようやく一段落して布団に入ったのは真夜中。
けれど、眠りについて一時間ほどで、また「ハイホー」。
正直、そのときは体も気持ちも限界に近く、「これはきついな…」と感じていました。
母の部屋に向かう途中、ふと目に入ったのが、壁に飾られている祖父の写真でした。
なぜか、その顔が少し笑ったように見えました。
母は、自分で立ち上がろうとしていました。
トイレに行こうと、必死に体を動かしています。
その手を取り、ゆっくりと支えながら、「こんな時間も、自分にとって必要なのかもしれない」
そんな気持ちが、自然と湧いてきました。
無理に前向きになろうとしたわけでも、自分を納得させようとしたわけでもありません。
ただ、その瞬間、この時間が自分の人生から消えてしまったら、きっと何か大切なものも一緒に消えてしまう。そんな感覚がありました。
環境を整え、状況を伝えるという選択
とはいえ、感情だけで乗り切れるほど、介護と仕事の両立は甘くありません。
仕事のリズムは簡単には変えられませんし、集中しているときに突然介護モードに切り替わるのは、やはりとても負担が大きいと感じます。
そこで少しずつ、「全部を自分の中だけで処理しない」工夫をするようになりました。
- 打ち合わせの時間帯を、できる範囲で共有する
- 急に席を外す可能性があることを、事前に伝えておく
- 仕事環境を、できるだけ母の動線から離す
特別なことではありません。
でも、「説明しなくても分かってもらえるはず」と思うのをやめただけで、気持ちは少し楽になりました。
介護をしていることを伝えるのは、弱さを見せることではなく、働き続けるための大切な準備なのだと、今は思っています。
未自分なりの「切り替えスイッチ」を探して
仕事モードと介護モード。
その切り替えは、今でも簡単ではありません。
「ハイホー」の音楽は、正直、切り替えスイッチとしては強すぎます(笑)。
だからこそ、自分なりの方法を探していくしかないのだと思っています。
- 深呼吸をする。
- 一度席を立つ。
- 短いメモを書いて頭を切り替える。
完璧な方法は、まだ見つかっていません。
それでも、無理に答えを出さなくてもいいと、最近は思えるようになりました。
日常の中の小さな工夫と、自分の気持ちを置き去りにしないこと。
それを積み重ねながら、母と二人三脚で、イチニ、イチニと歩いていけたらいい。
在宅介護をしながら仕事をしている方は、きっと同じように悩み、揺れているのだと思います。
正解はありません。あるのは、それぞれの「自分なりの形」だけ。
今日もまた、その形を模索しながら、一日が終わっていきます。
また、介護を最優先にしながらも「この先、仕事はどうしていけばいいのだろう」と悩んだ経験から、
在宅介護と両立しやすい仕事の考え方や選択肢を
「親の介護をしながらできる仕事とは?在宅で無理なく続ける選択肢と考え方」にまとめています。

仕事と介護の切り替えがうまくいかず、「もう無理かもしれない」と感じた時期がありました。
同じように、心や体の限界を感じている方に向けて、そのサインや立ち止まり方を整理したページがあります。

よくある質問(在宅介護と仕事の両立についてのFAQ|解決策提示型)
Q1. 在宅介護をしながら仕事を続けるのは、やはり無理があるのでしょうか?
A. 無理があるかどうかは、「介護と仕事の量」よりも、その組み合わせ方によって変わると感じています。
例えば、次のような選択肢があります。
- 仕事の時間帯や集中する作業を、介護の動きに合わせて見直す
- 「全部両立する」前提を一度外し、今は何を優先するか整理する
- 一時的に仕事量を調整できないか、検討してみる
続けるか、やめるかの二択ではなく、続け方を変えるという選択もあります。
Q2. 仕事中に介護対応が入ると、気持ちの切り替えができません。
A. 切り替えがうまくできないときは、「切り替えようとしすぎている」こと自体が負担になっている場合があります。
考えられる工夫としては、
- 介護対応のあと、すぐ仕事に戻ろうとせず、数分の間をあける
- 一度メモに「次にやること」を書いてから介護に向かう
- 今日は切り替えが難しい日だと割り切る
完璧に切り替えることより、引きずりすぎない形を探すことが現実的です。
Q3. 夜間対応が続き、仕事にも影響が出ています。
A. 夜間対応が続いている場合、「仕事に影響が出ているかどうか」ではなく、どこに一番無理が出ているかを見ることが大切です。
例えば、
- 夜間の対応内容を一度書き出してみる
- 毎晩なのか、特定の時間帯だけなのかを把握する
- 夜間前提の生活が続いていないか、振り返る
状況を整理するだけでも、「このままでいいのか」を考える材料になります。
Q4. 仕事仲間に介護のことをどこまで伝えるべきか悩みます。
A. すべてを話す必要はありませんが、仕事に影響する可能性がある部分だけを共有するという方法があります。
例えば、
- 急に席を外すことがある
- 時間帯によっては対応が難しいことがある
- 事前に調整できれば助かることがある
これは事情説明ではなく、
仕事を続けるための情報共有と考えてみてもいいと思います。
Q5. 「限界かもしれない」と感じたとき、どう受け止めればいいですか?
A. 「限界」という言葉が浮かぶのは、それだけ負担が積み重なってきた証でもあります。
そのように感じたときは、
- 今すぐ答えを出そうとしない
- 何が一番つらいのかを一つだけ言葉にしてみる
- 生活や仕事の中で、変えられそうな部分がないか探す
限界を感じたこと自体を、危険信号として受け取るだけでも十分です。
Q6. 自分なりの「心の切り替えスイッチ」は、どう見つければいいですか?
A. 切り替えスイッチは、特別な方法である必要はありません。
例えば、
- 席を立つ、場所を変える
- 深呼吸をしてから次の行動に移る
- 介護前と後で、同じ動作を決めておく
うまくいかない日があっても問題ありません。
探し続けていること自体が、すでに調整を始めている状態だと思います。

